「知っていますか?」
今日も、彼女は意味深に声をかけてくる。

2020/02/07発売予定!

 青ブタ第10弾にして初回特典にドラマCD付き、しかも新展開が始まるという盛りだくさんの新刊の発売予定日が来年2020年の2月7日に決定したことが発表されました!嬉しや~~~。

毎月10日の電撃文庫の新刊発表日に毎度チェックしては落胆するというのをもう何か月やってきたのだろうという感じだったので素直に安心しました。どうしても何かあったのかななんて勘ぐってしまうから・・・。

初回特典のドラマCDは11月中旬までに申し込まれた分を受注生産するようだ。

彼女が海の向こうへと渡った日。

 先日、ひっさびさに二次創作を書きました。「やがて君になる」より沙弥香さんと小糸さんのお話。

本当は沙弥香さんが小糸さんに惹かれるまでも書いてみたいと思うのだけど、燈子先輩意外が彼女を攻略しようとしたらそれこそ本が一冊書けてしまいそうなので、泣く泣く沙弥香さんにはデフォルトで少し小糸さんルートに進んでもらいました。

モデルにした場所は、浜松町の竹芝桟橋。先日用事があったので行ってみたところ、思っていた以上に「エモい」場所で、これはなんか書きたい!となりました。横浜の大さん橋も大きな船が何隻も泊まれるすごい船着き場だけど、私は竹芝のほうが好きかも。船との距離が近いからかな~。

そんな竹芝から定期旅客客船で行けるのは、近いところでは大島や神津島、だんだん遠くなって八丈島から小笠原まで。島めっちゃ行ってみたい。大島は神奈川側からもよく見える島で、翔子さんの水平線までの距離の話じゃないですが七里ヶ浜からだと低すぎて見えないけど、少し標高のある場所からだと全体が見えます。あと伊豆諸島といえば、先週の台風で被害が出ているところがあるそうで、連日テレビを見ていて心配しているところです。

pixivだと実際の写真は貼れないので、この記事では実際のスナップショットも本文の後ろに一緒に載せました。

 

 

 

彼女が海の向こうへと渡った日。

・・・なんて言うと、彼女が自分探しの旅へ海外に飛び出してしまったとか、はたまた急に現れた執事っぽい人に「実はあなたは海の女神様なのです」とか言われて、そのままどこかへ連れていかれてしまいました、なんてファンタジー小説が始まりそうだけど。さすがに現実世界はそこまで劇的に変化するものじゃない。

だけど、ある意味見たくなかった現実を見させられたのは事実で。

あの日、彼女・・・小糸さんが、転勤先の離島へ船で旅立っていった。

 

あれはまだ、残暑が厳しい8月の終わりのことだった。

「浜松町~、浜松町~、ご乗車ありがとうございました」

ガコンという音とともに山手線のドアが開く。私は周りの乗客が一通り降り終えたのを確認してから、ホームに降り立った。平日の夜ラッシュを迎えた電車はそのままたくさんの人々を詰め込んで発車していく。それをなんとはなしに見送っていると、可愛らしい声がかかった。

「せんぱーい、佐伯先輩」

階段に向かう人混みの中から、おーいと片方の手で口にメガホンを作って、もう片方の手を大きく振る女の子。

小糸さんだった。

今日の彼女は白と青の水玉ブラウスに、動きやすそうなデニムのカジュアルスタイル。そして傍らには、比較的小柄な彼女と並ぶとかなり大きく見えてしまうスーツケース。

「待たせてしまったみたいで、申し訳ないわね」

ごめんなさい、と少し早足で近寄る。

「いえいえ、私も今着いたところですから」

「あなたがそうやって言うときはだいたい余裕じゃない」

にひひ、と小糸さんが歯を見せるから、私はちょっとどきっとする。彼女が時折見せるその無邪気な表情は、なんというか…破壊的だ。少なくとも、家で飼っている猫はこんな感情を起こさせたりはしない。

「遅れるといけないし、行きましょうか」

なるべく動揺を悟られないように、私は先立って歩くことにする。

周りを見渡すと、そこら中にスーツケースや旅行鞄を持った人がいて、まさにこれから遠くへ出かける人が集まる駅という感じだった。というのも、この浜松町駅では羽田空港へとつながるモノレールに乗り換えられる。大半の利用客はそちらに向かうのだと思うけれど、一部は駅を出て東の方角へ歩いて行った。

「あの人たちも、行き先は同じみたいですね」

後に続くように、小糸さんがスーツケースを引いていく。

「あなたが転勤に船を使うと聞いて、初めてこんな所に船着き場があるなんて知ったわ」

「その気持ち分かります、というか私も最初は都心に船が来るなんて想像できませんでしたから。この辺りは大きな建物に囲まれているイメージが強いからでしょうかね」

そう、意外だと思うか当たり前だと思うか、東京都心にも大型客船が来る港がある。それは浜松町駅からしばらく歩いたところにあって、船のマストの大きなモニュメントがどーんと出迎えてくれるのが印象的だ。ひとまず小糸さんをモニュメントの前に立たせて、写真をパシャリ。角度を変えて、もう1枚パシャリ。

「先輩ってそんな写真とか撮りたがる人でしたっけ」

「気にしないで、あなたにも後でちゃんと送ってあげるから」

「別にそういうことを言いたかったわけじゃないですけど…ま、いいか」

ごめんなさい、単にあなたの写真が欲しかっただけです。

モニュメントがある中央広場の隣には大きなオフィスビル外資系のホテルが建っていて、それが近代的な雰囲気を醸し出している。けれど広場の下にあった待合室のような見た目の港のロビーは、それなりに歴史を感じさせる色合いをしていた。

「小糸さんは、今までこういうところには来たことがあるのかしら?」

「こういうところって、港のことですか?実は私あんまり旅行とか行ったことなくて。船に乗るのも今回が初めてなんですよ」

『竹芝旅客ターミナル』と書かれた看板の下の扉を開けつつ、小糸さんが苦笑する。

「別に、それが普通なんじゃないかしら。私も船に乗ったといっても、遊覧船くらいしか乗ったことがないわ」

そう、私はそれなりに各地に旅行に行ったことがあるし、いろんな乗り物にも乗ってきたという自負があるけど、実は大型客船というものに乗ったことがなかった。何もかも便利になったこの時代、行こうと思えばどこへでも電車や飛行機で行けてしまう。そうなると安全策というか、普段から乗りなれている移動手段をどうしてもとってしまいがちで、だから船というのは選択肢から外れるかそもそも頭に思い浮かばなかったりするのであった。

「それは、なんだか意外な気がします。てっきりクルーズ船とか豪華客船とか乗ったことあるのかと・・・」

小糸さんが少し驚いたような表情で見つめてくるので、しっしっと手を振る。

「悪かったわね、クルーズ船に乗るようなお嬢様じゃなくて」

「別にそんな嫌味を込めたわけじゃないですよ」

ロビーは三日月の弧のような形で広がっていて、入り口に面した壁には、乗船券乗り場と書かれた窓口が並ぶ。その脇には運行状況を表すディスプレイや船の紹介ボード、乗り場へ続く通路が並んでいて、端部にはお土産コーナー付きの喫茶店があった。これだけ見ているとまるで空港みたいだ、なんて考えてから、そういえばあれは「空」の「港」だったなと思い直す。

「なんでこんなにたくさん浴衣姿の人がいるんでしょう?」

人差し指を頬に当てながら、小糸さんが首をかしげる。彼女が言う通り、辺りには色とりどりの浴衣を着た人々がいて、大半をカップルや若者の集まりが占めているようだった。さながら花火大会の後のような景色に半ば圧倒されながら。私はどうにかそばの案内板に目線をやる。

東京湾納涼船と書いてあるわね。船の上で涼しくみんなでパーティしよう、って感じかしら」

「なるほど、それは楽しそうですね。私も事前に知っていたら乗ってみたかったな」

目を輝かせる彼女を見て、そのポジティブさに舌を巻く。私からしたら、周りのテンションが高すぎて、リラックスして楽しむどころかむしろ疲れてしまう予感がひしひしとする。そもそも無理して賑わっている場所に加わる必要はないのだけれども。

何とかして彼女のようにポジティブに考えるとしたら・・・例えば、小糸さんと二人きりでデッキから夜景を眺めるいい機会なのかもしれない。

いやいやいやいや、とぶんぶん首を振る。確かにそれはロマンチックで素敵だと思うけど、楽しそうだけど、いやでも小糸さんと二人きり・・・?!

頭の中に、水色の浴衣を着た小糸さんが「綺麗ですね、佐伯先輩」なんてこちらに微笑みかけてきている光景が浮かんで、カーッと頬が熱くなる。

「先輩、せんぱーい、・・・ダメだこりゃ。私、並んできますからね」

百面相をしている私を見て、小糸さんは呆れたように離れていった。向かう先は、乗船券売り場と書かれた窓口の並び列。どうやらそこで予約した番号を言うと、自分の乗船券を渡してくれる仕組みのようだ。

それから5分くらい経っただろうか。ようやく順番が来て、彼女は無事にチケットを受け取っていた。お礼を言った小糸さんがそのままこちらに戻ってくるのかと思っていたら、ちょいちょい、と彼女が手招きをしてくる。それだけでなく、彼女は近くのロビー備え付けのテーブルの前に向かった。なになに、とひとまず近寄ってみると、小糸さんはおもむろに先ほどもらったチケットに何かを書き始める。

「…何をしているの?券ならもうもらったじゃない」

「これは乗船票と言って、これにあらかじめ自分の住所とかを書いておかないと乗せてくれないんです」

「へえぇ、まだやることがあったのね」

ちょっとびっくりした。飛行機にさえ携帯をかざすだけで乗れる今日この頃、こんなアナログな切符があるなんて。

「私も家を出る前に説明を読んで初めて知りましたよ。だから、直前になって佐伯先輩が急についてくるとか言い出したとしても、先輩はこれを持っていないから乗せてくれないわけです」

「なっ…そんなこと、しない、し」

こちらが顔を真っ赤にして必死に反論をする間にも、小糸さんはまるで気にしていないようにさらさらと情報を書き込んでいく。それが一通り終わると、「よし」と一息ついてから私のほうへ振り返った。

「まだしばらく時間がありますし、上のデッキにでも行ってみましょうか」

 

今夜もまた、東京の街が眠りにつこうとしている。

頬を撫でる夜風は暑さよりも涼しさを感じさせてくれて、もう秋はすぐそこだ。港の向こうには臨海部の高層マンションや商業施設の明かりと、ライトアップされたレインボーブリッジが望めて、なるほどここはデートスポットなのかもしれないと思う。月明かりに照らされた東京の海は静かにきらめいていて、辺りに広がる景色と合わせてまるで、世界の半分が海に沈んでしまった都市に私たちだけ取り残されてしまったかのようだ。ちらりと隣に立つ小糸さんを盗み見てみると、彼女もこの光景の前にうまく言葉が出ないようで、じっと先を見つめたまま動かない。そのオレンジ色のデッキライトに淡く照らし出された横顔があまりにも美しくて、極上の幸せとはこういうことを言うんじゃないだろうか、なんてちょっと夢心地にひたる。

「何か言いましたか?」

しまった、口から感想が漏れ出ていたみたい。視線を動かさないまま尋ねてくる小糸さんに、私はそっと首を横に振る。

「別に何も。たぶん、あなたと同じようなことを考えていたと思うわ」

口から出た偽りの言葉は、そのまま夏の空気に溶けていきそうだった。

小糸さんが私と同じような事を考えているはずがない。いや、考えていないと言い切れるからこそ、私は彼女のそばにいたいと願うのだろう。そうすれば、自分がまだ持ちえていない大事なものを、彼女から見出せるかもしれないと思うから。

だけどそんな日々も今日で終わりだ。

はたして小糸さんはそれをどう受け取ったのか、とても嬉しそうに破顔する。

「すっごい綺麗ですよね。見とれちゃいました」

前を向き続ける彼女のその瞳はキラキラしていて、いったい彼女が見ている世界はどんな色をしているのだろう、なんて想像をする。

小糸さんは今、高校で国語の先生をしていた。

それは生まれた環境が本屋だったからかもしれない。あるいは、高校の時の生徒会劇で熱心に指導をしてくれた箱崎先生が、国語担当だったからかもしれない。理由はいくらでも推測しようと思えばできるけど、ともかく、小糸さんは教師になっていた。小糸先生の授業が分かりやすいのかどうか…は、もはや私からは確かめようがないのだけれど、まじめな性格だし何とかなっている気がする。それよりも、授業以外の部分で彼女は活躍しているんじゃないかと期待していた。例えば、小糸さんは生徒から何か相談を受けたりしても親身になって応えてくれそうだし。小糸さんの性格からしてまさに天職ではないか、というのが私と燈子の評だった。そのことを伝えると彼女はまんざらでもなさそうな表情を浮かべていたのが記憶に新しいところだ。

だけど、まさかその仕事を通じて、小糸さんと離れる日が来るなんて思いもしていなかったから、最初は信じられない気持ちのほうが大きかった。

なんでも、元々赴任していた先生が退任することとなり、異例ではあるが小糸さんが夏休み明けから代わりを務めることになるのだという。詳しいことはあまり話してくれなかったが、本人自体はかなり乗り気なようで、一度離島で暮らしてみたかったんですなんて笑顔で語ってくれた。

私としても、本人にやる気さえあればもう口出しできることではないし、せめて笑って送り出してやろうと思った。…のだけど。胸の中でくすぶる別れに対する苦しい思いは、出発の日が近づくにつれて大きくなっていくばかりだった。それは今この瞬間も変わっていない。

別れたくない。あなたと一緒にこれからも歩いていきたい。

私がそう強く願えば願うほど、どこか冷めた様子のもう一人の私が、そう願っただけでは何も変えることができないと囁いてくる。

分かっている。想いだけでどうにかできるわけじゃない。彼女を変えることはできない。そう身をもって知っているくらいには、私も大人になってしまった。

嫌だなぁ、って苦笑する。生まれて初めて、知識なんて無かったらよかったのにと思った。そうしたら、何も考えずに彼女のことを笑って送り出せたのかもしれないのに。

 そんな事まで考えたしまったその時、横から少し芝居がかった声がかかる。

 

「私、佐伯先輩から一度も『行ってらっしゃい』って言われてないんですけど」

 

はっとして顔を上げると、ぷくりと頬を膨らませた小糸さんが目に入った。あまりに可愛いのとおかしな表情だったので、私はおもわず吹き出してしまう。そんな私を見て彼女はさらに不満そうだ。

「七海先輩はあんなに言ってくれて、『いつでも帰ってきていいんだよ侑』なんてお母さんみたいなことまで言ってくれたのに、佐伯先輩が未だに言ってくれないから、私まだ踏ん切りがつかないんですよ?」

「…あなたは本当に、もう」

苦笑いがこぼれる。まったく、彼女はすごい人だ。彼女の正直で優しいところは、いい意味で変わっていない。今なら高校時代の燈子がなぜ小糸さんを『優しい』と評したのかが痛いほどよく分かる。今だって、私の本当の気持ちを見透かした上で、わざと私が明るくなるようにしてくれたのかもしれないのだ。

急に視界がクリアになった錯覚を覚える。後輩にここまでさせておいて、先輩である私がずっとくよくよしているわけにはいかないのだ。

「別に、一人で十分ノリノリなままこれから出発していこうとしてる人に、今さら『さよなら』なんて必要ないかと思ってね?」

そういって悪戯っぽく笑ってやる。そうやってせめて強がってやることで、彼女に大丈夫だというサインを送ってやった。

そうでもしないと、またいつ素の自分が出てきてしまうか分からなかったから。

まだ幾分ご不満そうな彼女の手を取って、跳ねるようにデッキを散歩する。ここからは、外洋に面した砂浜と違って、どこまでも海が広がっているのが見えるわけじゃない。だけどそこには確かに海の匂いが漂っていて、それに混じって船のエンジンの響き、高速道路を走る救急車のサイレン、船にコンテナを積み込む作業員の人たちの掛け声が同居していた。

私は多分、ずっとこの瞬間、この景色、この匂いを忘れないのだろうなと思った。

「そのうち落ち着いたら連絡しますから。そしたら、遊びに来てくださいね」

「ええ、きっと行くわ」

本当は、すぐにだって行ってみたい。彼女が見ることになる新しい世界を、私も見てみたい。

だけど、それでは自分で自分が許せない。

いつか、彼女と並べるようになったと自分で思えるようになったなら。

その時は、その時こそ、ずっと彼女と一緒にいたいと願おう。

だって私は、この人が。

「私にはよく分からないですけど…先輩がなにか悩んでいるのなら、行動してみるのも手だと思いますよ?」

「っ!まったく、あなたという人は…」

決心したそばから、笑顔で人の心を揺らしにかかるこの人のことが。

私はどうしようもなく、好きだから。

 

ゆっくりと船が岸を離れていく。どこまでも広がる夜空の静謐さに負けないように、私は船のデッキに立つ小糸さんに向かって、声を張る。

「侑!一生さよならなんて言ってあげないんだから!」

小糸さんは諦めたように苦笑しながら、大きく手を振ってくれた。だから私も、大きく手を振り返す。そうやって小糸さんの姿が小さくなって見えなくなるまで、ずっと、手を振り返していた。

 

 

日常生活のふとした瞬間に、小糸さんの姿を思い浮かべることがある。

それは小糸さんが、記憶の中の高校生の時の彼女より少し伸びた髪をおさえながら、展望デッキに立つ姿。

彼女が海の向こうへと渡って行った日の、彼女の姿。

それが思い浮かぶ度に、私は傍らで手を繋ぐ彼女に言ってやるのだった。

「侑、さよならなんて言ってあげないんだからね」

 

-END-

【やがて君になる】「彼女が海の向こうへと渡った日。」/「神無月」の小説 [pixiv]

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最後まで読んでくださってありがとうございました。次回も沙侑で、今度は少し大人になった二人のイチャイチャを書きたい…(煩悩

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