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「知っていますか?」
今日も、彼女は意味深に声をかけてくる。

翔子さんと見た夕日

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「そろそろ、沈んでしまいますね」

「そうですね」
「…」
「…」
「ほら、見てください。山の端っこに太陽が入って少し欠けてしまいました」
「ほんとですね」
「…」
「…」
視線を感じて左横を見ると、頬をリスのように膨らませて分かりやすく不機嫌さをアピールしてくる翔子さんと目が合った。
「咲太君は、寂しくないんですか?」
「何がですか?」
「夕日が沈む時って、なんだか無性に切なくなるじゃないですか。まるで、このまま夜が始まったら永遠に明日なんか来ないんじゃないかって思うような」
咲太は無言で、海の向こうで燃えるように輝く空を眺める。ところどころに、夜の訪れを教えてくれる星々が瞬いているのが分かった。
「どうしてこの海で見る夕焼けというのは、こうも私を感傷的にさせるんでしょうね」
「知らないですよ、そんなこと」
あくまで無感動に、咲太は海に向かって呟く。
「もう、咲太君は相変わらずだなあ」
苦笑する翔子さんの隣で咲太はゆっくりと立ち上がると、隣に座って見上げてくる翔子さんに手を差し伸べる。
「どうせ、明日なんて放っておいても来るんです。こうやって翔子さんが凝りもせず僕に会いに来るように」
翔子さんは咲太の手を握ると、えいっと小声に出しながら立った。
「咲太君は楽観的なんだね」
「そうでもないと人生なんてやっていけないでしょ」
「それもそうかもね」
翔子さんがくすりと笑みをこぼす。その少し寂しそうな横顔を見て、咲太は繋いだままの手にぎゅっと力を込めた。
「それでももし、まだ心配になるんだったら…僕はまた明日もここにいると約束しますから」
真っすぐ海の方を向いたまま、早口になったがそんな台詞を言ってみる。
翔子さんは最初小首をかしげてきょとんとした表情を浮かべていたが、やがて。
「…そうですね、咲太君がいるなら安心です」
照れたように頬を赤く染めて、嬉しそうにはにかむのだった。

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